平成どらきゅら


 角川書店刊 少年キッズ掲載

 
結構好きな作品で機会があったら、ぜひ再開したいと
 思っているんです(^_^)


「タイトル未定」(原作を作っていた当時はまだタイトルは未定でした。)


 怪奇小説家を目指す大学生、須貝 きん(18才・女)は今日も下宿にこもり、カップラ−メンをすすりながら明日を夢見ていた。

 そんな彼女のところに一人の老紳士が現われた。
「失礼ですが、須貝 かねさんでしょうか?」
「きんです、きん!!」
「ああ、どうも失礼! あなたがきんさんですね!?」
「はあ、そうですが、何か!?」
「私、須貝銀次郎の顧問弁護士の三崎土左ヱ門と申します。」
「…!?」

「須貝銀次郎先生、つまりあなたのひいじいさんにあたる方ですが、残念ながら先日他界されまして…」
「それはそれは、知らなくて申し訳ありません。」

 親戚関係が多い須貝家のため、彼女自体も会ったことがあるかどうかもわからないので実感が湧いて出てこないのだ。
「その須貝先生の遺言で貴方様が先生の遺産の正当継承者となりましたので、その手続をと思いましたので、わたくしが参った次第でございます。」
「はあ… 何かの勘違いじゃないんですか!?」
「いいえ、貴方様には先生の遺産である屋敷を受け取れます権利が発生します。」
「…」
「どうなされました!?」
 直立不動のまま気絶している彼女であった。



 日は変わり、どんよりとした天気の日。彼女は郊外に受け継いだ屋敷を見に来ていた。

「ここが亡き須貝先生が晩年まで過ごした屋敷でございます。」
「ねえねえ、ひいじいさんって何の仕事をしていたの!?」
「先生は50年に渡って古美術収集家として世界各国に名を轟かせておりました。 その時に使われました屋敷でございます。」
 目を輝かす彼女。

「え、え、じゃあこの屋敷の中には、モナ・リザとかビーナスとかがいっぱいあるのね? ね? ね?」
「あ、いえ、収集家といっても先生は古代の拷問機械とか古のお面とかでして…。」
「そ、そうなの? ま、まあ、それもなかなかな趣味で…。」
 苦笑するきん。

「そしてこれが屋敷の鍵とこれが…
 三崎弁護士の言葉も途中で彼女は鍵と弁護士の手にあった封筒を受け取ると一目散に屋敷に飛び込んだ。


 重い扉を開け中に入ると暗い部屋の正面に不細工な男の顔が見える。
「ギャアァァ!!」
「須貝先生の晩年の肖像画でございます。」
「ど、どろぼうよけかしらね…!?」

 何とか明かりをつけると探偵映画にでてくるような立派な家具がいたる処においてある。

「ねえねえ三崎さん、この家具とかも私のモノになるの!?」
「もちろんでございます。この家具もその立派な肖像画もすべて貴方様のモノでございます。」
「…肖像画はいらないなぁ…」


 三崎も帰り、一人書斎で祖父の拷問器具ファイルとかを見て、ご満悦な彼女。
「うわぁ、創作意欲が湧いてくるなぁ!」

 書棚の一冊の本に手をかけたとき、鈍い音と共に書棚が動き始めた。
「おおっ、これが推理映画で有名な隠し通路ね!」
 この屋敷の世界観に酔いしれている性か、たいして驚きもしない彼女であった。


 隠し通路を進むと小さな部屋にでた。そこには須貝銀次郎のコレクションが数多く保存されていた。西洋の拷問器具や変わった儀式とかに使うようなものも見れる。
「ひいじいさんって、生きているうちに会わなくてよかったかもね…。」
 複雑な表情のきんであった。

 コレクションの中に古い棺のようなものがあった。
「…これは何に使うもんだろう?」
 棺の横には古い羊皮紙に書かれたメモが張ってある。

「なになに、ひまし油で棺を拭く!?」
 彼女は近くにあった、油で棺を拭き始めた。
「…次は両脇のビスを三本外す。」
 次々と彼女はメモの通りに行動した。
「ふむふむ、すると…え−っと読み辛いなぁ…なになに『以上の事をすると、呪われし者の復活を促すものなり、絶対に避けること』…」
 彼女は少々考えた後、自分のやった行動にハッと気付く!
 棺がカタカタ動きだす。
「ギャアアアア!!」

 煙と共に棺の扉が開きはじめる。

 部屋の隅で震えてる彼女。

 棺の中からタキシ−ドとケ−プをまとった紳士が現われる。

「…あいやぁ〜…」

 彼女の何とも言えない声が聞こえる。
「…おまえは、誰だ…?」
 棺から現われた男は低い声で彼女に聞いた。
「わ、私は…き、きんといいます。」
「…きん…? 変な名だな…」
「わ−るかったわね!! どうせ私は昔からこの名前のせいで損しているわよ!! もう古くは幼稚園の時の英明から私の事を年寄り扱いして…クドクド」
「あ、すまぬ、そうゆうつもりじゃ…」
 慌てる弱気な紳士。
「だいたい、あんただって変じゃない! 棺から煙と一緒に出てきて、かび臭い服着てるし…」
「そ、そうか…!? それよりお前は私の事を知らないのか!?」
 少女疑いの眼で。
「まぁさか、そのかっこでドラキュラだなんていうんじゃないでしょうね。 あんたまさか…オ・タ・ク…!?」
「…ドラキュラだ…」
「でしょう! …ん、え、ほ、本当!?」
 軽くうなづくドラキュラ。
 放心状態の彼女。
「だいぶ長く眠っていたようだ、どれ貴女の血をいただくか…」

 ハッ我に返る彼女。
「ちょ、ちょっと待ち! 確かドラキュラ伯爵は処女の血だけを好むはずでしょ!」
「もちろん! よって私に選ばれた女性は光栄なのだ。」
「いやぁ−、残念だなぁ−、実は私は処女じゃないんですよ! いやぁ−本当に残念だなぁ−!!」
「私には処女の匂いしかしないが…」
 納得いかない顔の伯爵。
「ほら、伯爵は永い間眠っていたじゃないですか、きっとそれで鼻も調子狂っちゃてるんですよ!」
 汗ビッショリで説得する彼女。

「そ、そうか? う−ん、そうかもしれないな!?」
「でしょ、でしょ、でしょ、」
 机のうえに置いてある弁護士から貰った封筒に気づくきん。
「あ、そうだ。 弁護士さんから、これもあずかったんだっけ、何だろ、これ?」

 封筒の中を見るなり青ざめるきん。

 封筒の中には相続税の請求書が入っていた。
「1、10、100、1000、…。」
「なかなか健康的な顔色だな。」
 にこやかに答える伯爵。
「しかし、やっぱり、どうしても、処女の匂いが…」


 何かがひらめく彼女。
「そ、そうだ、伯爵、その鼻が治るまでここで働きなよ!」
「働く!? なぜ私が働かなければいけないのだ!?」
「いい? 伯爵、私たちが頑張って働かなかったら、なんと伯爵は国に持っていかれてしまうのよ!」
「私がか?」
「そうよ! 私がおじいさんから引き継いだ物全てにかかる税金なんですからね!」
「しかし、私は働いたことはないんだが…。」
「時代は変わったんですよ。 働かざるもの食うべからずって言ってね、偉い人もみんな働かなくちゃいけなくなったんですよ! それに働いていれば、鼻の調子も確かめられるじゃないですか!?」
「理由はわかったが、私は昼間は働けないぞ。」
「あ、そうか、吸血鬼って、太陽に弱いんだよね。」
「いや、私は単に生活が夜型なんだ。」

 コケる彼女。

「じ、じゃ、にんにくとか十字架とかは…」
「にんにくは前は苦手だったが、一時中国で生活したときがあってな、馴れてしまったわ。十字架っていったって、私は無宗教だから関係無いが、どちらかというと木魚の音の方が耳に障っていやだな。」
「あんた、本当にドラキュラ!?」
「侮辱な! ならばそなたの血を好いて証明を…」
「わ、わかった、悪かった。 でも働くのに贅沢は言わせないわよ!」

 困った顔の二人。

「まあ、どっちみち、昼間は私学校もあるし、ここでアルバイトを始めるとしても夕方からになるわね。」
「いったい私は何をすれば良いのだ!?」
「せっかく、おじいさんが残してくれたこの舞台やしき とあなたのすばらしい鼻があるなら…」
「私の鼻は調子が悪いんじゃないのか!?」
「そ、そうよね、あなたの鼻を治すために! スーパー・コンビニ・ヘルパーになるのよ!」
「なんだかよくわからない商売だな。」
 いやそうな顔をしている伯爵。
「まあ早く言えば、便利屋ってトコかな?」
「とほほ…、この私が便利屋〜っ?」
 情けない顔の伯爵。

「贅沢言わないの! 伯爵だって国に持っていかれたくないでしょう! 手っとり早くお金を稼ぐには何でもやるしかないのよ!! そうねキャッチ・フレーズはこの平成不景気時代に現れたスーパーヘルパー!! って言うのはいかが!」
「お前はセンスないなぁ…。」
 またまたトホホの顔の伯爵。
「うるさいわね! 相続税で持っていかれるあなたを助ける私の気持ちがわからないの!」
  どつかれるドラキュラ。
「そうね! 取り合えず私たちの事務所の名前を考えなくちゃね。 んと、んと、そう、わたしの名前を取ってゴールド・ヘルパー・サービスって言うのはどう?」
「便利屋きんではないのか?」
 またまたどつかれるドラキュラ。



 門の外に「殺人以外なんでも引き受けます。ゴールド・ヘルパー・サービス」の貼り紙がでかでか張ってある。



「しかし、なんで私がこんな事を…。」
「もういいかげんに覚悟を決めなさいよ!」
 情けない顔の伯爵、オーバーオールを着込んで教会の屋根の上で十字架の塗装の塗り直しをやっている。
「あ〜気分悪ぅ〜。」
「え、伯爵、やっぱり十字架がきついの?」
「あ、いや、私は高所恐怖症なんだ。」
 引きつり笑いのきん。


「伯爵、ここなら高所じゃないからいいでしょ?」
「まあ、確かに私は慣れたとは言ったが…。」
 困り果てている伯爵。 エプロンをつけて餃子を作っている伯爵。
「慣れていても目がショボショボするわい。」


 屋敷に戻ってきて一息つく二人。

「もう少し、楽な依頼を取らんか? 寝すぎで体が持たんわ。」
「そんな事言ってたら、伯爵、国の研究所で実験材料にされて、ああ、悲惨な最後になってしまうのよ!」
「だんだん無理があるような…。」
「何か言った!?」
「いやいや、今の世の中は平和な物らしいな、ペンキ塗りに餃子作りとはな、もっと過激にスリリングなサスペンスな依頼は無い物かな、ハハハ…。」
 最近の週刊誌を読みふけりながら伯爵がごまかすように言った。
「ねえねえ伯爵ぅ〜、伯爵が前目覚めていた時代は事件はいろいろあったの?」
「おお、よく聞いてくれた、私が若かりし頃のルーマニアは…」
 お年寄り?は話好きらしく、目を輝かせながら話し始めた。
 それと同時に電話のベルが鳴り響く。


「はいこちら、ゴールド・ヘルパー・サービス。」
「おい私の話は聞かないのか、壮大なロマンとサスペンスの…」
「うるさいわね、それどころじゃないでしょ!」
 部屋の隅で寂しくいじけてる伯爵。
「あ、はい、いえ、なんでもありません。ちょっとコウモリが暴れて。」

 あわてて妙な事を言うきん。

「え、なんですって、松本美奈さんの妹が帰って来ない? だったら警察に…、え、はい、誘拐だったら、え、確かに、え、え、なるほど、わかりました早速お尋ねします、ご住所を教えて頂けますか? ふむふむ、練馬区…。」


 電話を切り意欲に燃え出すきん。
「よーし、ついに来たわね! 連続美少女誘拐猟奇殺人事件!」
「連続殺人だったのか?」
 揚げ足を取る伯爵。
「細かいことはいいの! さ、伯爵、空を飛ぶ準備して!」
「空とな? 私が飛ぶのか?」
「当たり前でしょう。 天下のドラキュラ伯爵なんだから。」
「…とべんぞ!?」
 呆気に取られるきん。


「え、だって伯爵の正体って、コウモリなんでしょう?」
「何を言う! どこの国にコウモリに爵位をくれるトコがある。 私の家系はだな…」
「あ〜もういいや! 伯爵急いで、電車に乗るよ。」
「お前は人の話を聞かなくていかん! そもそも平常心とはな…」


 すでに伯爵の前から姿を消しているきん。
「おい、こら〜っまたんか〜っ! ところで電車とは何だ…?」


 被害者の家の前でチャイムを鳴らすきんと伯爵。


「すいませ〜ん! ゴールド・ヘルパー・サービスです。」
「やはり昼間は暑いのう。」
「そんな暑そうなマントとか来てるからでしょう! 脱げばいいのに。」
「どうも肌が弱くて、母からきちんと着てなさいと言われているのだ。」


 奥から足音が聞こえドアが開く。
「はーい、どうもこの度は…」
 伯爵の姿を見て驚く依頼主。
 伯爵低い声で…。
「…どうも…。」
「あ、所長さんですか? 失礼しました、私、松本奈美の姉の美奈と申します。 どうかお願い…」
 依頼主の背中をつつくきん。
「あの、私が所長なんですけど…。」
「あ、あ、失礼しました。 てっきりこちらの威厳のある方が所長かと思いまして。」
「うむ、そなたは見る目が確かだの、ところでそなたは処女かな…」
 あわてて伯爵の脛を蹴飛ばすきん。


「え、いま何か…?」
「あ、いえいえうちの所員はちょっと年寄りでたまにわけのわからないこと言うんですよ、ハハハ…」
 作り笑顔できんが答えた。
「誰が年寄りなのだ?」
 聞き返す伯爵。


「さ、一刻も早く解決をしたいですから、中で詳しく聞かせて下さい。 さ、さ、」
 依頼者の背中を押し奥に進めるきん。
「はあ。」


「おいおい、きんさんや私の質問はどうなってるんだ?」
 きつい顔で振り返るきん。
「名前で呼ばないで! 所長と呼びなさい!!」
「だから私の言うことも聞かないといかん…」
「はいはい、あとでね、伯爵も早く中に入って!」
 しぶしぶ家の中に入る伯爵。



 奈美の写真を前に座ってる美奈・きん・伯爵。
「すると、妹さんは学校から帰る途中に消えてしまったと言うわけですね。」
「ええ、そうなんですよ。 でももう一日近く経っているのに脅迫電話なども来ませんし、下手に警察にとも思いまして、お電話した次第でございます。」
「妹さんの友人関係には電話してみたのですか?」
「ええ、わかる限りは…。」
「ふむ、すいませんが妹さんの部屋を見せて頂けますか?」
「ええ、どうぞ二階です。」
 奈美の部屋に案内されるきんたち。


 部屋に入ったきんが妹の遺留品をいろいろと見ている。

 ひそひそ声で伯爵に…。
「ねえねえ、伯爵、そこのタンスに奈美さんの下着が入っているから匂いをおぼえといてね。」
「な、な、な、なんで私がレディーの下着の匂いを嗅がないといけないのだ!? 失礼な!!」
「なに言ってるの、私は早く伯爵に鼻を治してほしいから、少しづつでも慣れるといいなぁっと思って心を鬼にして言ってるのよ。」
「そ、そうか、それならしょうがないな。」
 少々ニヤケ顔でタンスを開け始める伯爵。
 疑いの眼差しで見ている美奈。
「あ、あの〜失礼ですが、お二人はどんな事件を解決したことがあるんですか?」
「え、え、それはねえ。」
 目線を下着の物色に燃える伯爵に送るきん。
「ん、私か? うむ、よくぞ聞いてくれた娘さん。 まあそこにお座りなさい。」
「は、はい。」
 床にちょこんと座る美奈。
「そうだな私が対面した事件で一番大変だったのが切り裂きジャック事件であの時は…」


 部屋の時計が数時間過ぎる。


「やはり強敵ブラックデビルはそのとき、私に…」
「は、はあ。」
 ほとほと疲れ果てている美奈。
「伯爵いくわよ。」
 小さい紙袋を小わきに抱えたきんが言った。


「いや、これからが本番なのだが…」
「いいからいくの! 美奈さん、どうもありがとうございます、早速捜査を開始しますので何か判りましたら、すぐご連絡致します。 ではでは…」
「あ、はい、お願い致します。」



 町中を歩いているきんと物珍しそうにきょろきょろ回りを見ながら歩く伯爵、伯爵に通行人の視線が刺さる。

「伯爵、ちゃんと奈美ちゃんの匂い覚えたでしょうね。」
「ん? ああそれは、覚えたが、これはどうしよう。」
 ポケットから一枚の下着を取り出す伯爵。通行人の変な視線が一層強くなる。
「わ〜、は、早く、しまいなさいよ〜!」
 あわててしまい込む伯爵。
「もうなんだかんだ言って、しっかりしてるんだから、このエロじじいは…。」
「え、何か言ったか?」
「いいから、この写真を見て。」
「写真か? 残念だが私は写真には写らないぞ。」
「違うわよ。 この写真は彼女の学校で撮ったらしいけど、手前が彼女と友達で、この後ろに写っている人なんだけど、どうも何かの受渡しをしているみたいなの。」
 写真には、彼女達以外に黒服を来た、いかにも怪しい男たちが写ってる。


「匂うな…」
「え、伯爵もそう思う? よーし学校に直行だ〜!」
 走り出すきん。


「匂う、匂うぞ、これは何の匂いだ?」
 蛸焼きの屋台の前の伯爵。
「だんな、一ついかがですか?」
「ふむ…」
 勝手にパックを開けて蛸焼きを口に入れる伯爵。
「はふはふはふ! おおしかしこれは、うまい!」
「だろう、はい400円!」
「何だ? それは?」
「惚けないで下さいよ、お金っすよ、お金。」
「知らん。」
「お客さん、ふざけてもらっちゃ困るなぁ、警察よんじゃうよ、ほんとに。」
「警察とな、私をこのような食べ物で罠にかけようとしたなぁ〜。」
 牙を剥き出しにして怒る伯爵。 牙に青海苔が付いている。
「うわ〜、何だ〜、こいつは〜。」

 一目散で逃げ出す蛸焼き屋店主。


 向こうからきんがやって来る。
「なぁにやってんの、伯爵? 早く着いてきてよ〜。」
「食事くらいいいだろう〜。」
「事件が解決したら、いくらでもトマトジュースあげるから、今は急ぐの!」
 伯爵の手を引っ張るきん。
「な、なん、私はトマト・アレルギーで…」
 遠くに去って行く二人。
 放課後の学校に着く二人。
「ここに必ず、何かヒントがあるような気がするわ。」
「そうかな〜?」
「なにいってんの、伯爵が匂うって言ったんじゃん!」
「いや、それは…」
「いいから行きましょう。」


 校庭の中を探る二人。


「どう奈美さんの匂いする?」
「ふうむ、微かにするが…」
「じゃあ、必ずここにいることはいるのね!」
「しかし、私の鼻は故障している…」
「細かいことはいいの。」


 校舎から先生が駆け寄ってくる。


「君、君達、いったい何をしているんだ、本校の生徒じゃないようだが。」
「私はゴールド・ヘルパーの所長、こちらは家の専属のヘルパーで。」
「そ、そのヘルパーが何をやっているんだ!?」
「松本奈美さんが昨日から帰ってなくて、彼女の失踪を追って…」
「連続殺人ではなかったのか?」
 茶々入れる伯爵。


「よくわからんが、取り合えず勝手に動かれては困る。 いま校長に許可を聞いてくるからここから動かないで待っていてくれ!」


 慌てた素振りで校舎に戻っていく先生。


「動かないで待っててって言われて、はいそうですかって言えますか。 いくわよ伯爵。」
「勝手に動くと困るらしいぞ。」
「もういいわよ、じゃあ奈美さんの匂いのする方向だけ教えてよ!」



 校舎の中の一室では黒服の男たちが校長と話している。 隅の方に先程の先生もい。


「そうかそんな奴らが、まずいな、取り合えず、そいつらも拘束するしかないな。」
 するどい眼光の校長が言った。
 黒服の男が校長室から続いている部屋のドアを開けた。
 そこには拘束されて苦しんでいる奈美がいた。
「くそ〜っ、写真を手に入れる前に助けが来てしまったぜ。 お前が早く写真のある場所を言わねえから、悪いけどそいつらもお前と同じ目になっちまうな。」
「むが、んご…!」



 校舎の中を見ている二人の向こうから先程の先生が走ってくる。

「もう、困るな、勝手に歩かれちゃ、まあとにかく校長が生徒の一大事なら是非にとお会いしたいそうだ。 校長室に来てくれ。」
「あら、それなら話は早いわ。 案内してください。」


 校長室のドアをノックする先生。「お連れしました。 入ります。」
「…奈美さんの匂いがする…。」
 ぼそっと伯爵が言った。
「え、じゃあ、まさか!」
 ドアが開くと同時に数人の黒服の男に飛びかかられ、あっというまに拘束されて、奈美の部屋に閉じ込められる伯爵たち。
「おまえたちの処分を決めるまでおとなしくしてろ!」
 捨て台詞を残しドアを閉める黒服の男。


 真っ暗い部屋の中、ぼんやり奥に少女が拘束されているのが見える。
「あなたが奈美さんね。 安心して、私たちはあなたのお姉さんに依頼されてあなたを助けに来たのよ。」
「このような状態になって言える台詞とは思えんが。」
 呆れ顔の伯爵が言った。


「うるさいわね、この状態をなんとかするのがあなたの役目でしょ。」
「まったく近頃の女は年寄りをいたわらなくなったのぅ。」
 愚痴を言いながら、ゴソゴソ動き出す伯爵。
「ところで奈美さん、いったい彼らは何を企んでいるの。」
「実は…。」


「え〜っ!? 裏口入学斡旋事業〜っ!?」
「ええそれも大学と組んでらしいです。」
「そうかあなたの写真に写ってたのは、その契約現場だったのね。」
「ええ、それで校長先生に写真のある場所を聞かれたのですが、どうしてかと聞き返しましたら、奥から変な方達が出てきてこうなってしまったんです。」
「そっか〜。」


 伯爵が二人のロープも解く。
「きん、じゃなかった、所長、これからどうするのだ?」
「出入口はそこだけだし、このまま逃げても証拠もあの写真だけだし、解決にはならないわ。 おそらく隣の校長室に帳簿とかがあるはずだから、それを手に入れれば警察だって黙っていないでしょう。」
「どうやって手に入れるんだ? 隣には拳銃を持った男もいるぞ。」
「え、そうなの?」
「うむ、硝煙の匂いがするからのぅ。」
「あ、あの〜探偵さん、こちらの方も探偵さんなのですか?」
 きんに伯爵の事を聞く奈美。
「え、ええ、まあ…。 その…」
「よぉーくぞ聞いて下さった処女むすめ さん、我こそはドラキュラ・ルイ・シュタインベック… ぎゃ!」
 部屋にあった壺で伯爵の頭を叩くきん。


「え、いまドラキュラって?」
「あ、あ、ああ、この人のあだ名なんです。 本当は虎切 五郎って言うの、アハハ。」

 汗だくになって答えるきん。


「うっせーぞ! おめーら!!」
 ドアを蹴破り黒服の男が入ってくる。
 ところが部屋の中には誰もいなかった。
「あ、どこいきやがった! おい逃げたぞ!」
「な、なんだと!!」
 全員部屋の中に飛び込んでくる。
 きんたちは伯爵のケープの中に隠れてドアの影にいた。
 全員が入ったところでそーっと部屋を抜け出す一同。
 ドアの鍵を閉めてしまう。
「あ、てめえら出せ、出さねえか!」
 ドアを叩く黒服、校長たち。


「さ、今のうちよ、帳簿を探すわ! 伯爵は奈美さんを外に逃がして! 奈美さんはそうしたら警察に連絡して!」
「わかったわ!」
「伯爵! どさくさに紛れて奈美さんの血を吸っちゃ駄目だからね!!」
「えっ?」
 不思議そうな顔をする奈美だが、伯爵にかかえられ部屋を出る二人。


 部屋を物色するきん。 エロ本やら女生徒を撮った写真とかが見つかる。
「ったく、ここの校長は最低だな。」
 机の中に二重引き出しを見つけ、中に帳簿を発見する。
「よし、これだ!」


 校長たちを閉じ込めた部屋のドアノブに銃弾が撃ち込まれる。
 ドアを蹴飛ばし、出てくる男たち。
「あっら〜、お早いお着きで。」
「てめえ、よくも。」
「バハハーイ、ケロヨーン。」
 校長室から逃げ出すきん。
「くそっ、待て!」


 銃を撃つ黒服。

 追いかける黒服たち。


 黒服達が廊下の角を曲がると先の方にケープを広げた伯爵の姿が見える。
「ハハハハ! 我こそはドラキュラ伯爵なり!!」
 決め台詞を言う伯爵。
「てめえ!」
 黒服の銃が火を吹く。
 伯爵の額に見事に命中…、ひびが入る?
 割れる姿見。
「あっ!」
 割れた鏡の横から伯爵が姿を見せる。
「ワッハッハッハ! どうだぁ!!」
 トリックに引っかけた喜びで高笑いする伯爵。
「てめえ、古臭い手で引っかけやがって!!」
「な、なにぃ? 古臭いだと、そうなのか…。」
 落ち込む伯爵。
「今度こそ外さねえぜ!」
 数発の銃弾が伯爵に当たった。
「あいた! いたいなぁ!」
「え?」
 呆気に取られる黒服。
「あ〜もう、私のケープに穴が開いてしまったじゃないか、撃つなら肌の所にしてく!」

 怒りながら近づいてくる伯爵。
 弾が切れる黒服。
「うわぁ〜!」
 黒服を片手で持ち上げて、ごみ箱に投げ捨てる伯爵。


「おっ〜と、そこまでだジジイ!」
 きんを人質にとり伯爵の前に立ちふさがる校長。
「ごめんね、伯爵。」
「どういうトリックか知らねえが、よくも計画をめちゃめちゃにしてくれたな!」
「はてどう言う事かわからんが、女性を楯にするとは正義の紳士のする事ではないな、ならば…。」
 するどい眼光の伯爵。
「伯爵〜っ、殺しちゃだめよ〜っ!」
「ふむご婦人がそう言うのなら。」
「何わからねえ事いってやがんだ! 死ね!!」
 伯爵のケープが広がり、廊下の明かりという明かりが塞がれ、真黒の闇が広がる。


「うわわわ〜っ」


 しばらくすると物音さえしなくなり、きんがおそるおそる目を開く。
「大丈夫か?」
 伯爵がきんに手を差し延べる。
「あ、ありがとう、校長たちは?」
「ふむ、私の催眠術でみんな寝とるわ。 ほれ!」
 伯爵が指を指したところに一固まりになって寝ている校長たち。
「さすが伯爵。」


 遠くからパトカーの音が聞こえてくる。


「奈美さん、うまく警察に行けたみたいね。」
「ん?」
「どうしたの伯爵?」
 口の中をモゴモゴしている伯爵。
 ハンカチーフを口にあて何かを吐き出している。
「伯爵、大丈夫?」
「うむ、ちと体の中で邪魔だったのでな。」
 ハンカチーフの中には先程伯爵に撃ち込まれた弾丸が数発くるまれていた。

「あやや〜。」

 落ちついたせいか弾丸を見て気絶するきん。
「しょうがない、処女おとめ だな。」
 きんを抱き抱える伯爵。
「事件も解決したし、さて、これからどうするかな。 しばらくこの娘の嘘につきやってやるかな。 だいたい吸血鬼の鼻が壊れたなど聞いたことないのにな、ふふ…。」

 階段を上り屋上まで行く伯爵。

「さて警察に見つかるのもやっかいだし、100年くらいこの世界で楽しむか、よくがんばったね。」
 きんの額に接吻をする伯爵、少し若返った感じになる。
 月夜にシルエットが浮かぶ。


「屋上も探せ〜!!」
 警察の声が響いてきた。
「ふむ、それでは行くか。」
 ケープを思いっきり広げるとコウモリの羽のようなシルエットになる。


 屋上に飛び込んでくる警察ご一行。
「どうだ、誰かいたか!?」
「…いえ、誰も。」
「よし、わかった、帰るぞ!」


 月光の光に大きなコウモリのシルエットが飛んでいる。


 数日後。
「どう伯爵、今回の事件で少し鼻が治ったみたい?」
「ふむ、そうだな。 奈美さんというのは、中々初々しい香りがしたな。」
「え、じゃあ私はしないって言うの?」
「だって処女おとめ ではないのだろう?」
「う、う、そりゃ、そうだけど。」
 きんに背中を向け新聞を読みふけってる伯爵。 舌を出している。
 奥できんが電話を取っている。
「あ、はい、こちらゴールド・ヘルパー・サービス。」


 警察の一室では刑事が困った顔をして悩んでいる。
「誰か、こいつらの催眠術を解ける奴はいないのか〜!!」
 虚しく署内に響くのであった。



                            END