少年誌用 1994年

ここは、とある町の発明家の家。
天才科学者・奇木 カイカイは超高性能の洗濯機の開発に勤しんでいた。

奇木  「やった! ついに出来たぞ! これこそ人類の永遠の夢の洗濯機が完成したぞ!」

キリン 「どこがどう変わったか、わからないけど、どうせまた失敗するんでしょう!?」

ほとんど外見が普通のモノと変わらない洗濯機を見て奇木のキリンが言った。

奇木  「フフフ…、このスイッチを入れれば、お前もこの父で良かったと思うときが来るぞ!」

キリン 「…どうだか…。」

冷めた口調でキリンが言った。

奇木  「行くぞ! スイッチ・オン!」

うなり出す洗濯機。

取り合えず調子良く作動しているが、しばらくすると震え出す洗濯機。

キリン 「ちょ、ちょっとぉ〜、お父さん、本当に大丈夫なの〜!?」

奇木  「あたりまえじゃ! 奇跡が起きる前兆なのだ〜!」

泡を吹き出し始める洗濯機。

だんだん振動や泡が凄くなり、洗濯機から光が溢れ始める。

キリン 「あやややや〜!!」

奇木  「よ〜し、行けぇ〜! ミラクル・ウォッシャ〜!!」

…と奇木が言った途端に洗濯機が大爆発を起こす。

ついでに奇木の研究所まで大爆発。

二人  「うぎゃぁ〜!!!」

しばらくして気がつき目を開けるキリン。 奇木はまだ気絶している。

キリン 「う、う〜ん、あいたたたた。」

キリンの目の前に広がる原生林。

しばらく呆気に取られているキリン。

キリン 「あ、そうか、これは夢だったんだ、どうりで洗濯機が爆発したと思った。 な〜んだよかった。」

胸をなで下ろすキリン。

が、胸に変な虫が止まっていて触ってしまう。

ハッとして胸を見て、顔色が変わるキリン。

キリン 「ゆ、夢なんだから、何があっても変じゃないわよね、ハハハ…。」

そのとたん、キリンのすぐ顔の脇を弓矢が通り過ぎる。

キリン 「ヒ!!」

キリンもビックリして、虫も逃げてしまう。

キリンが身動きをとれないでいると、原生林の茂みの中から小さな男の子が現れる。

ガンバ 「チェ、逃がしたジャン。」

キリン 「ゆ、夢、ゆ、夢、これは夢…。」

必死に平静を保とうとするキリンであった。

ガンバ 「ネエネが静かにしていたらウマガ(虫の名前)が取れたんだゾン。」

キリン 「な、何よ、アンタ。」

ガンバ 「ウマガで作ったニクボン(ハンバーグ)はホンにウマカよ、ああそれなのに逃がしてしまったジャン…。」

チチパパ「どうした、ウマガは捕まえたカラン?」

茂みの中から毛むくじゃらの大男が現れた。

再び気絶するキリン。

チチパパ「?」

宴会の騒ぎに気がつき、目が醒めるキリン。

キリン 「?」

キリンが目が醒めた場所は洞窟の奥であった。 

そのまた奥で先程の男の子やチチパパ、毛皮をざっくばらんに着込んでいる女性たちに囲まれて奇木が酒を飲んで陽気になっている。

キリン 「お父さん!!」

奇木  「おお、気づいたか、お前もこっちに来ないか?」

キリン 「来ないかって、お、お父さん、いったいその人達は何よ!」

奇木  「何よって、見て分かるとおりの原始人さんたちじゃないか。」

キリン 「な、な、な、何で原始人がそこに居るのよ!?」

奇木  「何でも何も、どうもわしの作った洗濯機が高性能すぎて、原始時代を現代に持ってきてしまったようじゃ、ハッハッハッ〜!」

キリン 「…な〜んだ、そうだったの…、じゃ!なぁ〜い!! 何で洗濯機で原始時代を呼べるのよ!?」

奇木  「そんな難しい事言われたって、お父さんにはわからないよ。」

キリン 「あんたは天才科学者なんだろうがぁ〜!!」

奇木の首を締めて叫ぶキリン。

チチパパ「まあまあ、これでも食べて落ちつきなさレン。」

皿のうえにおいしそうな匂いがするハンバーグが乗っている。

キリン 「あら、おいしそうなハンバーグ、じゃ、い、いただこうかしら。」

照れくさそうに料理に手が延びるキリン。

キリン 「ん、おいしいわ、いままで食べたハンバーグには無かったおいしさね。」

ガンバ 「ウマガのニクボンだジャン。」

キリン 「ふ〜ん、ウマガのニクボンって言うんだ…、ハッ!!」

さっき原生林の中でガンバが言ったセリフを思い出し、血の気が引いていくキリン。

キリン 「ま、ま、まさか、さっきの虫?」

笑顔で頷く、原始人一家。

ショックで落ち込むキリン。

その後ろでは再び奇木や原始人一家と明るく宴会が始まっている。

急に後ろから奇木にプロレスの技をかけるキリン。

キリン 「お父さん、そんな陽気でこれからどうすんのよ!!」

奇木  「じょ、じょんなこと言ったって〜。」

キリン 「あ〜ん、もう彼氏も出来ないし、学校にも行けない、車もなければ、ブティックもない、一生、虫食べて生きるのね〜!」

泣きながら叫ぶキリン。

奇木  「な、何か勘違いしてるぞ!」

キリン 「え?」

奇木  「洞窟の外を見てみろ!!」

洞窟の外を見に行くキリン。

外に顔を出した瞬間、大歓声が聞こえる。

記者  「おーっと、ついに原始人が顔を出しました! 意外とかわいい顔です!」

警官  「さあ、おとなしく投降するんだ。」

洞窟がTVカメラやパトカーに囲まれている。

キリンあわてて洞窟の奥に戻ってくる。

キリン 「お父さん、いったいどうなってんの!?」

奇木  「ウーム、どうやら原始時代がタイム・スリップしたのは私の研究所のまわりぐらいなのだ、どうせだったら全部タイム・スリップすれば…。」

キリン 「じょ、冗談じゃないわよ、ま、取り合えず、虫の食事だけは免れそうね。」

ガンバ 「おいしいジャン。」

キッとガンバを睨むキリン。

警官  「早く、おとなしく出てこい!!」

記者  「どうやら奇木さん一家は原始人に拉致されていて非常に危険な状態みたいです。」

洞窟の中に響いてくる声。

キリン 「危険な状態ねぇ…。」

キリンが後ろを見ると、陽気に宴会をしている奇木と原始人一家。

洞窟の入口から白旗が出てくる。

外の一同「?」

キリン 「…エヘヘ…。」

キリンがごまかし笑いで顔を出す。

記者  「おーっと! 凶悪な原始人がついに投降したか〜!?」

キリン 「あたしゃ、ここの娘だ!!」

郷海先生「キリーン無事かぁ〜!?」

キリンの担当の先生が人ゴミをかき分け飛び出して来た。

先生  「うおお〜!! 原始人め! 俺の鉄拳を受けて見るがいい!!」

キリンを原始人と勘違いしてパンチを繰り出そうとする先生。

キリン 「チョ、チョット、待て、待て、待ってよ!!」

洞窟の入口にいたらしい巨大な甲虫を手に取り楯にするキリン。

甲虫に思いっきりパンチする先生。

拳が砕ける先生。 倒れてしまう。

警察・記者に説明をしているキリン。

キリン 「…という訳なのよ。 だから原始人一家の人は安全なんです…と思います。」
警察  「そう言われましてもねぇ。」

キリン 「早急に父に元の時代に戻す機械を作らせますから。」

警察  「うーん、まあしょうがないなぁ、じゃあそれまでは奇木さんの方で原始人の管理をお願いしますよ。」

キリン 「は、はい…。」

自信のない声でキリンが答えた。

洞窟の奥に戻ってみると、奇木とチチパパが騒ぎ疲れて寝ている。

キリン 「はぁ…、どうしよう。」

回りを見ると、ガンバや女の子たちもいない。

キリン 「ゲ、ま、まさか!?」

慌てて洞窟の外を探し始めるキリン。

キリン 「あ〜ん、何で私がこんな事をしなくちゃいけないのよ〜!?」

すると裏の原生林の木のうえでガンバが遠くを見つめて、涙を流している。

キリン 「そっか〜、あの子たちの方が悲しいわよね…。」

ガンバに近づいて木のしたから声をかけるキリン。

キリン 「おーい、君、ちょっと降りておいでよ。」

ガンバ 「?」

木から降りて来るガンバ。

ガンバ 「なんダ?」

キリン 「ねえ、もう遅いから寝た方がいいよ。」

笑顔でキリンが言った。

ガンバ 「う〜、まだ明るい、ヒルマ〜!」

キリン 「そうか、町の明かりが24時間ついているからなぁ。」

ガンバ 「ヒルマ、狩りする、ガンバもやる。」

キリン 「そうか、君の名前はガンバって言うんだ、私の名前はキリンって言うの、よろしくね!」

ガンバ 「キリン? 変な名前ジャン!」

キリン 「大きなお世話よ! とにかくあの明るいのは太陽の明かりじゃないの、だから早く寝なさい!」

ガンバ 「ガンバ、明るいと寝れないジャン。」

キリン 「だったらさっきのお姉さんに寝物語でも…。」

ハッとするキリン。

キリン 「そう! アンタのお姉さんたちはどこいったのよ!?」

ガンバ 「お姉さん? ネエネの事か?」

キリン 「まあ、お姉さんでも、ネエネでもいいから、何処行ったのよ!?」

ガンバ 「ネエネは、四角い山行った。」

キリン 「四角い山?」

ガンバが指を指した所は遠くに見える新宿の高層ビル街の方であった。

キリン 「うぎゃ〜!!」

目茶苦茶慌て出すキリン。

キリン 「いいこと、アンタはここで留守番してるのよ!」

ガンバ 「どっかいくのか?」

キリン 「あんたのネエネを探しに行くのよ!」

ガンバ 「ガンバも行くジャン!」

キリン 「何言ってんのよ、これ以上私に苦労かけないでよ!」

ガンバ 「ガンバ行く! ガンバ行く!」

キリン 「ダメったら、ダメ!!」

ガンバ 「ガンバ、匂いでネエネの居場所わかる、連れてく、便利。」

キリン 「ウッ…、べ、便利かも。」

ニヤニヤしているガンバ。

キリン 「わかったわよ! でもいいこと、絶対に一人でどっかいっちゃダメだからね。」

ガンバ 「わかった、ガンバ、どこにも行かない。」

キリン 「じゃあ出発よ!」

新宿の町の中歩いているキリンとガンバ。

キリン 「ねえ、早くネエネを探してよ。」

ガンバ 「こことても臭いジャン、ガンバ、ネエネの匂い分からない。」

キリン 「あ〜もう!!」

すでに姿を眩ますガンバ。

キリン 「ゲ、ど、どこに行ったのよ!?」

ガンバ 「ウリャアァァ!!」

キリン 「は!」

ゲーセンの画面に向かって石斧を振りかざしているガンバ!!

キリン 「キャア! 待ちなさぁ〜い!!」

ガンバを制止するキリン。

ガンバ 「こいつ俺に向かって来る、ガンバ戦うジャン!」

キリン 「これはテレビゲームなの。」

ガンバ 「テレビゲームって何だ?」

キリン 「う〜んとね、え〜とね、つまり嘘なのよ、その人は嘘の人なの!」

ガンバ 「ガンバ嘘嫌い、やっぱりやっつけるジャン!」

キリン 「あ〜ん、だから〜、何て言えばいいんだろう?」

ガンバ 「キリン、何言ってるのかわからない。」

キリン 「私も何て言っていいかわからないわよ!!」

ガンバの腕を思いっきり引っ張ってゲーセンを去る二人。

キリン 「まったく少しは私の気持ちも理解して欲しいわ!」

と、言ってガンバの方に振り返るキリン。

しかしガンバはそこには居らず、キリンと手を繋いでいたのは、懐かしい腕相撲ゲームの力士であった。

驚くキリン。

キリン 「ちょっとぉ! ガンバー! 何処行ったのよ!?」

ガンバ 「キリンもこっちに来るジャン。」

ガンバの声のする方を向くキリン。

すると繁華街のアーケードの看板の上に座ってるガンバの姿が見える。

キリン 「あ〜っ!!」

ガンバ 「ゴロピカ(雷)の雲の上みたいで気持ちいいジャン。」

ネオンライトがいろいろと点滅する看板。

キリン 「ガンバ、早く降りてきなさい!!」

ガンバ 「まだ明るいジャン。 明るいうちはいっぱい遊ぶジャン。」

看板の上からジャンプして姿を眩ますガンバ。

キリンの頭の上で一ジャンプしていった。

キリン 「待て〜っ!!」

その頃、ネエネの方は大食いセールがあるレストランでひたすら食事をしていた。

既にそのレストランの大食い記録を塗りかえるほどの量を食べていた。

回りの大食い自慢のたくましい男たちもその大食いぶりに開いた口が塞がらなかった。

店の冷蔵庫が空になりかけた頃、やっとネエネの食欲が落ちついてきた。

店主  「あ、あの〜、え〜と、大食いチャンピオンですので、写真を一枚取りたいのですが…。」

店主恐る恐るネエネにカメラを向ける。

ネエネ、にっこりと微笑んで、カメラを受け取り、食べてしまう。

ネエネ 「…これ、まずい、いらないワン。」

食いかけ?のカメラを床に捨てるネエネ。

呆気に取られる店内一同。

街を歩いているネエネ、原始人ルックが回りの人間の目を引く。

若者がネエネをナンパしようと手を引っ張ったりするが、逆にネエネの怪力でのされてしまう。

ネエネ 「?」

ふとウインドウの中のマネキンに目がいくネエネ。

綺麗な服を来ているマネキンがいくつもある。

そこの店に入るネエネ。

店員  「いらっしゃ…い…ませ…!?」

ネエネの服装に一瞬驚くが、すぐに平静を取り戻す店員。

店員  「ど、どのような物をお探しですか?」

ネエネ 「あれ!」

ウインドウのマネキンの服を指さすネエネ。

店員  「あ、あれですね、なかなかお目が高い。 ハハ…。」

そそくさと服を用意する店員。

店員  「ささ、どうぞどうぞ、こちらで試着出来ますよ。」

試着室に連れていく店員。

試着室に入り、服を着始めるネエネ。

しばらくすると、試着室から布が破ける音がする。

店員  「お、お客さん!? どうしたんですか!?」

中から出てきたネエネは店員から預かった服の袖とかを自分に着やすいように原始人バージョンに破き直していたのであった。

ネエネ 「この方がいいワン! これ邪魔!」

破いた布とかを投げるネエネ。

受け取った店員がびっくりして目を回す。

店員  「う〜ん…。」

何気なく店を出るネエネ、再び街を探索する。

映画館街に出るネエネ。

恐竜映画の看板を見かけ、映画館に入る。

お菓子を食べながら、映画を見ているネエネ。

巨大画面の迫力に感動も人一倍である。

映画のクライマックス、巨大な恐竜の映像が画面一杯になる。

ネエネ 「ンギャァァ〜!!」

物凄い悲鳴を上げるネエネ。

映画館にひびが入る。

気絶しているネエネ。

その頃ガンバはゲームセンターで大暴れをしていた。

力が必要のゲームに関しては、そんじゅそこらの力自慢の男には負けてはいなかった。

ハンマーゲーム・パンチングゲーム・スト2?までもガンバにかなう奴はいなかった。

ふとガンバはバーチャル・レーシングに興味を持ち始め、プレイし始めるが、あまりにもぶつかるので車が回転して目を回してしまう。

奇木の家にキリンとガンバとネエネがいる。

怒っているキリンの前にシュンとしているガンバとネエネ。

キリン 「いいこと、今度こんな事したら、ご飯抜きだからね!!」

ガンバ 「ご飯抜き、ガンバ辛い…、こんな事しない…ジャン。」

ネエネ 「私も辛い…、ネエネも気をつける、もうしない…ワン。」

キリン 「あ〜あ、私が原始時代に行きたくなっちゃったよう〜。」

高イビキのチチパパと奇木。

                            FIN